経歴

10歳まで（1960年）の子ども時代は自分が住んでいた静岡もひどい公害におかされる前だった。家の前を流れるきれいな小川に入り真っ赤なザリガニを探しまわってつかまえた。なし畑にニイニイゼミとアブラゼミが鳴く圧倒的な音の世界の中をセミを追って走りまわった。清流の桔梗川に入ってコブナ取りや川の上を悠然と飛ぶオニヤンマ、夜には浴衣を着て蛍をうちわで落としてつかまえた。妹と小学校へ通う曲がり角にあった大きな木の花にたかる緑と白のちょうちょの乱舞。あんなにたくさんのちょうちょが舞うのはそれ以来見たことがない。これらの自然体験が今になっても自分の絵の根幹にあると思う。 高校は全寮制。勉強もあまり手につかず2浪して武蔵野美術大学に入学。版画クラブに入って銅版画を制作したのはその後の役に立った。25歳の時にバックパックを背負ってインドに2ヶ月の一人旅をした。この旅が教えてくれたものは自分が生まれた意味は自分に内在しているちょっとした何かを見つけることで芸術家として有名になることではないということだった。それでずいぶん楽になってなんでもいいから好きなようにものを作っていけるようになった。カナダに移住しモントリオールのコンコルディア大学大学院でやれたことは自分のアイデアを膨らませてそれを大きなサイズで表現できたことだった。また念願だったフランス語が話せるようになって自分の性格としては英語よりもずっと合っていることが分かって嬉しかった。 

1995年、神戸大地震があった時にヌナブット準州主都イカルエットにあるイヌイットの大学で美術を教えた。その後、ベーカーレイクとパニルトンで計4回、いつも1月から雪嵐の吹雪く中北に向かって版画を教えに行った。イヌイットは日本人とあまり変わらない顔をしているので彼らも親近感を覚えてくれたようだった。体感気温がマイナス100度にもなった翌朝には雪そり用のハスキー犬の弱い者は死んでしまっていた。 

1992年以来今日までカナダを含めていろんな国で長期滞在し制作と旅をしてきた。これからも機会があるごとにバンクーバーを基点として出発を繰り返すだろう。中学校のサッカー部以来、僕は身体を動かすのが好きなようだ。近年はテニスラケット持参で出かけて行って現地の人と球を打ち合って過ごすようにしている。